見出し画像

コンタクトセンターの未来を変える史上最大規模の挑戦――みずほ銀行×PKSHAで開発したトータルソリューション【前編】

PKSHAが2024年8月にリリースした「AI Suite for Contact Center」は、大規模なコンタクトセンターのオペレーター支援や管理業務の高度化にAIを実装したトータルソリューションです。同ソリューションはみずほ銀行との取り組みに先行して構想、開発が進められ、それらを全面的に適用する形で、多岐にわたる技術の社会実装を実現しました。その舞台裏では、PKSHA TechnologyとPKSHA Communicationを横断したチームが結成され、開発に挑みました。

今回は前編・後編に分けて、「AI Suite for Contact Center」がみずほ銀行に適用されるまでの道のりを聞きます。前編となるこの記事では、PKSHA史上最大規模のプロジェクトに取り組むにあたり、体制がどのように整えられ、どんな課題を乗り越えてきたのかを、プロジェクトに関わった3名に聞きました。
(後編はこちら

小武海 徹(写真左:PKSHA Technology AI Solution事業本部 BizDev ソリューションデザインリード)
大学院修了後、JR東海、楽天において、中長期での投資計画/技術開発計画の策定、リスク管理業務に従事。その後、Arthur D. Little (ADL)、経営共創基盤 (IGPI)において、製造業や小売業、運輸業などの企業に対する事業戦略策定、実行支援に従事し、PKSHA Technologyに参画。PKSHAではCommunication Tech領域を中心に様々な業界のDXを推進。

下沢将啓(写真中央:PKSHA Technology AI SaaS開発本部 プロダクトマネージャー 兼 PKSHA Communication 事業戦略開発本部 本部長)
東京工業大学生命理工学部卒・同大学院生命情報専攻修了。三菱総合研究所にて自然言語処理・深層学習の研究開発・事業開発を経て、PKSHA Technologyに参画。PKSHA TechnologyのAI Solution事業におけるビジネスサイドとして様々なAIプロジェクトをリード後、PKSHA Communicationに参画。AI SolutionとAI SaaSを連動させたCommunication Tech Solution事業を立ち上げ、現在は顧客接点領域における中長期的な事業戦略策定・事業開発およびグループ全体のAI SaaS高度化に従事。

中島 真也(写真右:PKSHA Technology AI Solution 事業本部 エンジニアリングマネージャー)
大学院で宇宙物理学の博士課程を取得後、ポスドク研究者としてJAXAや理化学研究所に在籍。その後2019年にキャリアチェンジし、アルゴリズムエンジニアとしてPKSHAへジョイン。小売の在庫最適化や、金融における与信プロジェクトに関わるとともに、2021年からはエンジニアリングマネージャーとしてチームマネジメントも担当。2023年からはAI SaaSプロダクトのアルゴリズム開発も兼任。


コンタクトセンターの課題を網羅的に解決する、PKSHAのノウハウを組み合わせたトータルソリューション

――はじめに「AI Suite for Contact Center」についてお聞かせください。

小武海:「AI Suite for Contact Center」はPKSHAが展開するAI SaaS事業とAI Solution事業の技術とノウハウを組み合わせて作られた、大規模なコンタクトセンターDXのための統合ソリューションです。

みずほ銀行様向けにカスタマイズされた次世代コンタクトセンターシステムには、応対内容を認識してリアルタイムで情報をサジェストしたり、対話要約やCRM登録、応対品質評価といった業務を自動化したりといった多くの機能が包括されています。本ソリューションはオペレーターの応対品質の向上だけでなく、お客さま自身の自己解決支援、管理業務の高度化といった、コンタクトセンターのさまざまな課題解決に役立ちます。

――みずほ銀行様と連携が始まった背景と経緯をお聞かせください。

下沢:プロジェクトが始まる前から、みずほ銀行様にはPKSHA Communication社が提供する「PKSHA Chatbot」や「PKSHA FAQ」、「PKSHA Voicebot」をご利用いただいていました。そこで関係性が深まっていったうえで、数年後のコンタクトセンター更改に向けた議論の場に呼んでいただいたことが今回のプロジェクト始動のきっかけです。当時の関係性において、PKSHAはあくまで各プロダクトを個別に提供する会社でした。そのため、大規模な次世代コンタクトセンターの構築を担う会社というイメージは、あまり持たれていなかったと思います。

「プロジェクト全体を任せたい」から始まったPKSHA史上最大規模のプロジェクト

――そこからどんなふうに「AI Suite for Contact Center」の構想が作られていったのでしょうか。

下沢:みずほ銀行様が目指す方向性について確かめつつ、その実現のために、プロダクトを使っていただくだけでなく、カスタマイズ性の高い独自のアルゴリズムを導入する提案をしていきました。その過程で、これまでプロダクトを提供してきたAI SaaS事業のメンバーに加え、AI Solution事業のメンバーにも議論や提案に入ってもらうようになりました。当初はデリバリーの確実性を高めるため、AIに関わる範囲でのご支援を想定しており、システムインテグレーションの領域とは住み分ける構想を描いていました。そこに先方から「プロジェクト全体を任せたい」という一声をいただいたことで、PKSHA史上最大規模のコンタクトセンター改革支援に挑むことになったのです。

――非常に挑戦的な内容ですが、どのような点が難しかったですか。

中島:PKSHAにおける最大規模のプロジェクトということもあり、複雑に絡み合った要件を解きほぐすのが大変でした。「どういうシステム構成?」「どんな制約がある?」「アルゴリズムはどこをどう変える?」と一つひとつの課題を整理し、ほぼ毎日ミーティングを重ねてお客さまの話を聞きながら、要件を固めていきました。

また設計する際には「PKSHA Chatbot」「PKSHA Voicebot」による自動応答、「PKSHA Speech Insight」による通話内容の書き起こし・自動要約といった弊社が持っているSaaSの機能を生かしつつ、オペレーターのリアルタイムサポート機能や対話ログ分析機能を拡張することで、効率的に開発ができることを意識しました。

階層構造をうまく取り入れ、円滑なコミュニケーションとすばやい意思決定ができるチームに

――最大規模のプロジェクトを進行するうえで、社内体制はどのように作られましたか。

小武海:全体統括チームの下に、コンタクトセンターの業務を踏まえた機能領域ごとにチームを立て、各チームにリーダーを配置する形で組織を構成しました。具体的には、応対中のオペレータや管理者の業務を支援する機能を担当するチーム、応対後の業務を支援する機能を担当するチームといった分け方です。ここに外部の協力会社のメンバーなども加え、PKSHAの数あるプロジェクトの中でも大規模な体制でプロジェクトを進めていきました。

限られたリソースの中で滞りなくプロジェクトを進行するためには、会議体設計の工夫も重要です。情報の錯綜を防ぐために全体で連携を取りながら分科会を重点的に開きつつ、情報共有を密に行うことで、全体の整合性を損なわない形でチーム単位での意思決定を進められる組織体制にすることができました。

中島:今回のプロジェクトの成功要因のひとつとして、組織の階層構造をうまく作れたことが挙げられます。機能単位でのチームは縦割でありつつも、アルゴリズムエンジニア同士で横ぐしの連携もするといった具合に、必要に応じてどこに何を連携すればいいのかが明確に定義されていたことが、円滑なコミュニケーションの基盤になりました。

――その背景には、PKSHAのカルチャーがあるのかもしれませんね。

下沢:PKSHAの組織は、もともと職種同士の分断が強くないという特徴があります。エンジニアはBizの視点を持ち、Bizも技術的な要素を考えて動くということは、私たちにとってごく自然なことです。だから大規模なチームでコミュニケーションパスが整理されていたとしても、それぞれがプロジェクトの全体像を把握しながら進むことができるのだと思います。

中島:互いの専門領域にしみ出し、業務をカバーし合うカルチャーが浸透していることが、今回のプロジェクトにおいても活きていました。

スピードを落とさず開発を進行できたのは、これまでのAIの実装実績があったから

 ――プロジェクトの進行方法について工夫したことはありますか。

小武海:振り返れば、要件定義の初期の段階でコンタクトセンターの現場に足を運んだり、現場部門の方々にヒアリングを密に行ったりしたことが、その後のスムーズなプロジェクト推進の基盤になりました。特に、現場で直接オペレーターや管理者の方々の業務を見せていただいたことは、リアリティを持って要件定義や設計を進めていく上で、ターニングポイントになったと思います。

中島:その日までは書面でのやりとりが中心で、欲しい機能はわかっていても、実際に現場に落とし込んだイメージが明確ではありませんでした。しかし、実際に現場の様子を見せていただいたことで、「なぜその機能が欲しいのか」という要望の背景が理解できるようになったのです。PKSHAでは、Bizだけでなくエンジニアもお客さま先の現場に直接赴いて、利用シーンを確認することが多くあります。やはり最終的に使われるところを想像できると、「自分だったらこういうところが不満に思うはず」といった先回りの思考もできるので、設計・実装が格段にやりやすくなりますね。

小武海:PKSHAらしい進行というところで言うと、UI/UXを先行的に検討して、画面レイアウトや業務における活用イメージを早い段階から関係者間で共有するようにしました。それを企画部門の方々だけでなく、現場でシステムを実際に使う方々にも見てもらって、業務上の観点からのご意見を数多くいただきながらブラッシュアップしていきました。

下沢:はじめから現場の方にも確認してもらって議論をするスタイルは、確かにPKSHAらしいかもしれません。あまり細かな要望や意見を序盤から聞くと対応が大変ではあるのですが、出し尽くしていただいたほうが、最終的には長く使ってもらえるソリューションを作りだすことができます。これはふだんのPKSHAの進行方法なのですが、大規模なプロジェクトでも同じスタイルを貫けたことは、今回のプロジェクトの実りのひとつです。

中島:システム開発の工程では、設計が終わってから実装・開発を進めるウォーターフォール開発が一般的ですが、アルゴリズム開発では精度がどこまで出るかやってみなければわからないので、ウォーターフォール開発のアプローチで取り組むとなかなか難しい部分もあります。そのため、今回のプロジェクトでは裏でシステム設計をやりつつ、アルゴリズムの実装は先に進めて、お客さまからのフィードバックをいただきながら修正・検証のサイクルを回すという進め方をしました。ウォーターフォール開発をベースにしつつ、実装するもののイメージを明確にする段階では高速にフィードバックを回すという、PKSHAならではの進行方法だと思います。

――そういった進行が実現できる背景をお聞かせください。

中島:今回のプロジェクトでは、機能ごとの依存関係がそれほど多くなかったため、機能単位で個別に切り分けながら開発しやすかったことが起因していると思います。

下沢:最適な形で切り分けて個別に開発するのは、PKSHAの得意分野かもしれません。入口と出口の形式が変わらなければ、それぞれ開発して中身が変わっても、結果的にうまくつながるように切り分けます。私たちはAI・機械学習に関わる多くの実績を重ねてきました。その中ではお客さま先のシステムエンジニアと協働するうえで、適切な切り分けを求められる機会も多いです。そういった経験の蓄積が、今回のプロジェクトでも活きました。

――プロジェクトの成果と、今後の展望についてお聞かせください。

小武海:2024年8月、みずほ銀行様の次世代コンタクトセンターシステムは無事リリースされました。数百人規模のオペレータがお客さま応対を行う環境で、AIによるサポートがリアルタイムでストレスなく動くことに、ありがたいことに各所から喜びの声をいただいています。プロジェクトの序盤で議論を重ね、開発段階でもフィードバックを高速で回せたからこそ、音声認識の精度やUXの満足度が非常に高い状態でリリースすることができました。

ただし、リリースはゴールではなく、あくまでスタートラインです。どれだけ丁寧に設計や開発を進めても、実際に現場で運用を始めることで浮き彫りになる点が必ず出てきます。それらを積極的に集め、地に足をつけた議論を重ねながら、継続的に対応を進めていくことが重要です。進化を続ける生成AIの技術トレンドを踏まえながら今後も機能を強化し、みずほ銀行様と共に、コンタクトセンター業務の変革と、更なる付加価値の創出を進めていきたいと考えています。

―INFORMATION―
PKSHA Technology では、ともに社会実装を加速させる仲間を募集しています。採用サイトや Wantedly から応募が可能ですので、是非ご覧ください!

▼全職種の募集要項はこちら

▼ PKSHA 採用サイト

▼ Wantedly はこちら