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「人とAIのコミュニケーション」で健全な社会を作る。PKSHAが不正・犯罪検知ソリューションに取り組む理由とは

PKSHA Technology(以下、PKSHA)では、不正・犯罪検知ソリューション”PKSHA Security”(パークシャ セキュリティ)の本格展開を2022年8月より開始しています。

このソリューションの土台となっているのは、PKSHAのAI Solution事業本部がこれまでに蓄積してきた不正・犯罪検知プロジェクトでの知見です。金融業界や保険業界などの企業とともに不正・犯罪検知の実績を積み重ね、さらに幅広い領域で活用できるソリューションへと進化させました。

PKSHAグループが目指すVision「人とソフトウエアの共進化」の実現に向けた現在地をお届けするマガジン『PKSHA ナラティブ』。

この記事では、PKSHA Securityはどのようなアルゴリズムによって支えられているのか。なぜPKSHAはセキュリティ分野の課題解決に挑んでいるのか。ソリューションを支える2人のキーパーソンに聞きました。

森田 航二郎 | 執行役員 兼 AI Solution事業本部長
慶應義塾大学卒業後、アクセンチュア、ボストンコンサルティンググループにて10年以上コンサルタントとして従事した後、PKSHA Technologyに参画。経営戦路、新規事業開発、など旧来型のコンサルティングのみならず、ビックデータ分析、デジタルトランスフォーメーションなど、デジタル・テクノロジー領域のプロジェクトを多様な産業・業界でシニアマネージャー/プロジェクトマネージャとして推進。PKSHA Technologyに参画後はソリューション事業部のビジネスサイドのリーダーとして需要予測・数理最適化に関するPJTを建設機械、ネット広告、小売、保険、クレジットカードなどさまざまな業界でオリジネーション・推進。2021年より、現職。

森下 賢志 │ AI Solution事業本部 VPoE
東京大学での博士課程修了後、日立製作所ではストレージシステム高速化の研究、フィックスターズでは自社製品の機械学習モデル開発に携わるなど、製品のコアとなる技術開発に貢献。その後PKSHA Technologyに参画し、様々な業界でのアルゴリズム社会実装を推進。主に教育業界のDXに関わり、複数のアルゴリズム導入や新規アプリ立ち上げを実施。また金融・製造業・小売業の経験も豊富で、様々な機械学習モデルを各業界に実装。2022年より、現職。

巧妙化する不正の手口を学習し、被害拡大を防ぐ

——"PKSHA Security“の本格展開につながった、過去の不正・犯罪検知プロジェクトについて教えてください。 

森下: PKSHAではこれまでに、個別のクライアント企業とのプロジェクトとして、クレジットカードの不正利用検知や損害保険金の不正請求検知などの機械学習モデルを社会実装してきました。こうした実績を蓄積し、クレジットカード業界や損害保険業界におけるPKSHAのブランド認知が拡大しています。

森田:クレジットカードの例で言えば、不正利用を検知する部門の方々が、たくさんのルールや定義に基づいて「カードの利用停止」や「取引の拒否」を決める仕組みを作っています。会社によっては数千〜1万を超えるルールを設けているところもあるほどです。ただ、人が作成したルールだけでシステムが判断することには限界もあり、不正利用ではないにも関わらず誤ってカード利用を停止してしまうことも。「不正だけを止める」ために、私たちは人とAIが共存する形のソリューションを研究してきました。

——AIが関与することで提供できる価値とは?

森田:近年増加している「クレジットマスター」と呼ばれる不正をご存じでしょうか。これはクレジットカード番号の規則性に基づいて他人のカード番号を割り出す手法。大量のクレジットカード番号を生成し、1円などの小さな金額の利用によって穴がないかを見つけ、脆弱性を発見すれば一気に大きな金額で不正利用する手口です。従来、クレジットカード会社はクレーム防止を優先し、少額決済での不正を見逃していましたが、AIならこうした手口も見抜くことができます。

森下:不正を働く側は「どんなことをすればカードを止められてしまうか」の知見を次々と蓄積して新たな不正を生み出していくため、ルールを作る側がなかなか追いつけないという問題もありました。いたちごっこの状態で、不正利用の手口がどんどん巧妙化しているのです。この点についても、AIは処理能力の早さを生かして膨大なデータを毎日休まずに学習できるため、不正の手口が変わった場合にもすぐに対応し、被害の拡大を防げます。

どんなに精度の高いAIでも、使い続けてもらわなければ意味がない

——不正・犯罪検知の機械学習ソリューションを開発していく上で、PKSHAはどんな強みを持っているのでしょうか。

森下:機械学習の開発においては、得られるデータを機械が解釈しやすいように変換する特徴量生成と、そうした特徴量をもとに不正・犯罪検知予測モデルを作成する学習のプロセスが特に重要です。クレジットカードで言えば、元データである取引記録を機械が学習しやすいように「国」「時間帯」「金額」などの特徴に分けて学んでもらうということです。

森田:PKSHAのアルゴリズムエンジニアの仕事は、こうした元データの抽象度を高めたり低くしたりして、大量のバリエーションを機械に学んでもらうこと。それぞれのエンジニアが持っている技や、各プロジェクトで得られた知見を積極的に共有することで、他社ではなかなか実現できないソリューションの開発にもつなげています。また、PKSHAではエンジニアもビジネスサイドと同じようにクライアントの課題や現状を理解し、アルゴリズムを設計するだけでなく、その先にある「クライアントに真に活用していただく」という出口を重視していますね。

——AIを真に活用するために必要なこととは?

森下:機械学習も100パーセント正しい答えを出せる存在ではないという前提で、クライアントを巻き込み、使う人とともにAIが成長していく仕組みを構築することを目指しています。私たちはこの考え方を「人とソフトウエアの共進化」としてビジョンに掲げました。どんなに精度の高い機械学習モデルを作っても、環境の変化に追従し続け、使い続けてもらわなければ意味がありません。そのためクライアントのサポート体制も長期的視点で構築し、何年も先まで役立てるよう、AIとの付き合い方まで設計しています。

森田:現場では「AIはこういうものだから、こう使ってください」と説明するのではなく、「AIがこんなふうにサポートすれば、現場の方々の判断が変わっていくはずです」といった形で提案しています。また、実際に活用していただくための実装にもこだわり抜き、既存のシステムが複雑化していたり、レガシーなシステムを使い続けていたりする場合でも他社と協業して活用策を提示しています。社内のエンジニアと話していても、「きちんと効果を出して使い続けていただきたい」という強い意志を感じることが多いですね。

エンジニア個人が「ソリューションもR&Dも同時に担う」意味

——「人とソフトウエアの共進化」を実現するために、AI Solution事業本部ではどのようなミッションを担っているのでしょうか。

森田:PKSHAは3つのレイヤーで事業を進めています。“Layer1”では先端情報技術によって個別のクライアントを支援し、課題解決のためのソリューションを提供。“Layer2“では私たちが開発したプロダクトを社会に実装し、人々の生活を変えるような価値を提供していくことを目指しています。そして、それらを実現するための研究開発の基盤として“Layer0”があります。

私たちが担うセキュリティ領域のプロジェクトは“Layer1”にあたりますが、AI Solution事業本部としては、社会の一歩先の事例となるプロジェクト実績をクライアントともに生み出し、複数社に貢献する汎用的な技術を“Layer2“のプロダクトへと連携していくことを目指していますね。

——”Layer0”で発明された新しい技術を実装していくことも強く意識しているのでしょうか。

森下:はい。組織体制としては“Layer0”のエンジニアも“Layer1”を兼任していることがほとんどで、社会のニーズに“Layer1”の活動で触れながら、社会実装のためのR&Dを進めています。「ソリューションもR&Dも同時に担う」人がいることによって、組織全体でシーズとニーズを組み合わせたソリューションを生み出すことができているのだと思います。その意味では研究機会だけでなく“Layer1”という実践の場もある意義はとても大きいですね。

森田:5年前にクライアントから依頼を受け、当時は実現が難しかったのに、ここ1〜2年の技術の進化によって再び案件化するといったことも起きています。社会実装を前提としたR&Dを今後も強化していきたいと考えています。

(参考)“Layer0”とよばれるR&D部門・PKSHA ReSearchのビジョン

人とAIのコミュニケーションを通じて、より健全な社会を作る

——今後のPKSHA Securityの展開予定について教えてください。

森田:クレジットカードの不正利用を防止するソリューションでは、導入予定も含めて、国内大手クレジットカード会社の半数以上で導入していただけるまでになりました。今後は、中規模以下のクレジットカード会社でもソリューションを活用していただけるよう、データシェアリングモデルによる共通の仕組みを提供しておりますので、こちらも拡大していきたいと考えています。

森下:領域としては今後、銀行での不正送金やマネーロンダリング防止、生命保険関連など、金融機関のさまざまなリスクマネジメントに価値を発揮できると見ています。最近はQRコードなど多岐にわたる決済領域にもAIによるソリューションを提供していますし、SNSでの不正投稿監視などにも活用されているところです。

——不正投稿の監視とは?

森田:SNSでの誹謗中傷や好ましくないコミュニケーションが大きな社会問題となっています。またマッチングサービスでも、利用規約を無視した不正なコミュニケーションが至るところで行われている実情があります。ネットのサービスが広がれば広がるほど、コミュニケーションにおける不正の形が広がっていく。それを技術の力で防止していくこともPKSHA Securityのミッションだと考えています。

森下:以前からキーワードマッチングなどによる不正投稿監視はあらゆるサービスで行われてきましたが、現在ではそれらで対応困難な「禁止キーワードの間に文字を挟んでごまかす」「隠語表現でぼかす」といった投稿もAIが発見できるようになりつつあります。さらに言えば、単語そのものは過激ではなくても、「丁寧に攻撃的な文章を書かれる」ケースもネット上では起きていますが、こうした事態もAIが早期に発見できるよう研究を進めています。

——ネット上の不正投稿や誹謗中傷への対応については、表現の自由が侵害される可能性を不安視する人もいるかもしれません。

森田:だからこそ「人とソフトウエアの共進化」が重要なのだと思っています。いわゆる「グレーな表現」すべてを排除しようとしたら、たしかに表現の自由が侵害されてしまうおそれが出てくるかもしれません。そもそも、人によって判断が分かれるからこそグレーな表現になるわけですよね。そのためPKSHA Securityでは、グレーなものだけを抽出して、最終的な判断を人に委ねられる仕組みを構築しています。

森下:表現の自由と不正投稿抑止のような境界が曖昧なものには、単純に「通す」「止める」を自動化するのではなく、曖昧なものを挙げて人の意思決定を支えるAIが必要とされるのではないでしょうか。人の目だけでは気づけない危険性の種をAIが発見し、人に対して情報提供していく。そんな役割を担うことができれば、先々は社会のインフラとなるサービスで成長できるはずだと考えています。

——森田さん、森下さんそれぞれの個人としての展望も教えてください。

森田:「業界初」となるような注目度の高い仕事を進め、社会に知ってもらうことで、AI Solution事業本部のメンバーのモチベーションアップにつなげていきたいですね。私自身、そうした先進的で挑戦的な仕事を通じて成長させてもらいました。PKSHAには個人のやりたいことを最大限尊重するカルチャーがあるので、ぜひメンバーにも大きなやりがいを得てもらいたいです。

森下:私は、引き続きAIが社会で役立つことなら何でも挑戦していきたいですね。人と機械のコミュニケーションを通じて、より健全な社会を作っていく。それに向けた事例を“Layer1”で増やし、“Layer2“のプロダクトを通じてより広く社会実装する、といった流れを実現していきたいと考えています。


INFORMATION

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取材・執筆:多田慎介
編集:伊藤勇剛
撮影:尾木司