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PKSHA x Goodpatch で行った「 AI が介在するサービス」でのユーザー体験の探求

AI × UXという新たな領域の探求

昨今、様々な SaaS やサービスに AI を組み込む動きが加速しています。そのようななか、「AI をどのようにしてサービスに取り入れるか」は重要課題となっており、しばしば議論の中心となります。しかし、「AI を取り入れたサービスにおいて、どのようなユーザー体験(UX)を提供すべきか」という議論はまだまだ初期段階にあります。これについては、今後 AI × UX の探求が進み、徐々にベストプラクティスが定義されていくことでしょう。

AI × UX の探求テーマの一例として、

  • 一連のカスタマージャーニーにおいて、AI をどのように介在させるべきか?

  • ユーザーが AI との信頼関係を築くために必要な情報設計とは?

など、これまでにはない問いが生まれており、サービスの作り手はその問いに向き合う必要があります。そこで、AI 技術を専門とする PKSHA と、デザインを専門とする Goodpatch が全 2 回の合同イベントを開催。第 2 回目のイベントでは、ディスカッションやワークショップを通して AI × UX の可能性を議論しました。

花塚 匠 | 株式会社PKSHA Workplace AI SaaSプロダクトマネジメント部 プロダクトマネージャー兼プロダクトデザイナー
英国バーミンガム大学大学院 計算論的神経科学/ 認知ロボティクス修了。東大松尾研発スタートアップや、デザインファームを経てリーガルSaaS領域で事業立ち上げ。プロダクト開発責任者として従事した後、PKSHAグループにジョイン。AI SaaSのプロダクトマネージャー/ プロダクトデザイナーとして従事。

2 社合同でディスカッションテーマを策定

PKSHA と Goodpatch の共同企画として開催された本イベントでは、まずは両社で AI と UX に関するワークショップを実施することに。プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアを中心に、PKSHA からは 3 名、Goodpatch からは 5 名のメンバーが参加しました。
本ワークショップでは、以下を両社ならではの観点でブレストすることで「AI を無駄にしないとは?」に対する解像度を高めていきました。

  • 実際の開発において感じた課題

  • 既存の AI サービスに対する考察

  • ペルソナを設定した上で、AI への考えを考察

最終的に 2 つの論点がピックアップされ、それらを深掘りするというスタイルでイベントの開催へと繋げています。

PKSHA × Goodpatch によるワークショップ@PKSHA オフィス の様子

AI SaaS では UX 改善のプロセスが 2 軸に

第 1 回目のイベントでは、従来のサービス開発と AI を用いた開発の違いに焦点を当てました。

第 1 回目で特に強調したポイントは、AI SaaS が持つ「ユーザー利用に伴うデータの蓄積と UX 向上のサイクル」を理解することです。従来のサービス開発では、分析を通じてユーザーが抱える課題・ストレスを特定し、これに基づいて新しいデザインや機能を導入するプロセスが一般的です。一方 AI SaaS の場合、このプロセスに加えて、ユーザーの利用によって蓄積されるデータが AI の精度を向上させることで、自動的に UX が改善されるという追加のサイクルが存在します。「ユーザーが使えば使うほど UX が向上するメカニズムがあるか?」という問いが体験設計において重要となります。

デザイナー含め、サービスの企画者はその 2 軸を意識した上で設計すべきですし、サービス改善を回す必要があると考えています。「使えば使うほど UX が良くなるか」という点では、「ユーザーからのどのようなフィードバックをどのポイントで受け取るか」などについて、デザイナーと AI エンジニアが密にコミュニケーションを取ることも重要です。「ユーザーの利用に伴い AI が進化し、その結果ユーザー体験も向上する」という「共進化構造」のデザインを両者で行うべきと考えています。

当日資料抜粋

AI SaaS は「サービスを使っていて楽しい」感情を醸成しやすい

従来の SaaS と比較すると、AI SaaS はユーザーをより巻き込み、愛着を醸成することができると考えています。ユーザーが AI SaaS を利用することで AI が進化し、その結果 UX が向上していくことから、ユーザーに対してそのような感情をデザインできると考えているからです。

たとえば、PKSHA Workplace のプロダクト「PKSHA AI ヘルプデスク」でも「使えば使うほど良くなる UX」が強く意識されています。
ユーザーが使えば使うほど「AI からの提案がブラッシュアップされていく」構造となっており、お客様からは「AI が賢くなっている!楽しいですね!」といった声をいただいています。

私はこれまでのキャリアで「使っていて楽しい」というフィードバックをいただくことは少なかったので、当時は衝撃だったことを覚えています。この頃から「ユーザーのポジティブな感情をデザインすること」はとても大事にしています。そのような体験設計はとても新鮮であり、AI × UX を探求するなかで気づけた新しい側面でもありました。

プロダクト開発現場から考える「AI を無駄にしないサービスづくり」とは

第 2 回目のイベントでは、デザインや開発の現場における AI 活用について深堀りしました。1 回目と比較すると、より実践的な内容になっています。

具体的には、UI 設計時・情報設計時等のポイントとして以下の 3 つをピックアップしました。

ポイント①:AI に対して様々な導線を用意しユーザーの行動に合わせて分岐できるデザイン

AI がカバーできるタスク領域は日々拡大しています。しかし、AI がアウトプット (生成) できる範囲が広がる一方で、人が想像すらしない内容を出力することも多々あります。そのような、予期しない出力によるユーザーのフラストレーションを減らすためにも、「人が介在するパートを用意する」といった設計が求められます。

人への連携を考慮した PKSHA AI ヘルプデスク
AI での対応が十分ではない場合に、シームレスに人に連携することができる機能をもつ

AI の出力をある程度コントロールするためには、ユーザーの入力内容の自由度を減らすアプローチもあります。事前に対話シナリオを設計することでユーザーの入力表現の幅が減り、目的達成までの体験の質が向上します。このように、AI の出力を可能な限りコントローラブルにすることは、ユーザーのフラストレーションを減らすという意味ではとても重要です。

資料抜粋

ポイント②:ユーザーが AI に対して理解を深められるデザインを行うべき

ユーザーに対して「AI はどのような知識を得ており、どのようなタスクを実行できるのか」を知らせることも非常に重要な観点です。基本的には「AI 側ができることを提示し、ユーザーにはそれを選択してもらう」という関係性が望ましいと考えています。同時に「AI 側ができること」のクオリティが、ユーザーの利用に伴って向上していく設計があるかどうかも検討に入れるべきだと思います。

資料抜粋

AI SaaS を提供していくにあたっては、避けて通れない 2 つのポイントがあります。「AI とユーザーが共進化する関係」が成立しているか。またその特徴をユーザーも理解しているか。この 2 つです。
「共進化する関係 = 使えば使うほど良くなっていく」という概念をユーザーが理解していれば、利用開始当初の AI の精度が高くなくても「まあ最初はこんなものだよね」という納得をしてくれます。言い変えると、AI の精度が洗練されていない状態でもリリースが可能であり、徐々に AI が成長していくプロセスを作り手とユーザーの間で実感できます。
さらに言えば、ユーザーがこのような特性を理解いただけていれば「AI の精度がある程度洗練されていなくても、まずはリリースしてみるのも一つの手」 ということも言えます。

ポイント③ ユーザーに AI の存在を認識させるデザインを行うべき

AI が介在するサービスにおいて、UX を高めるには「ユーザーと AI が信頼しあえる関係」をつくることが必要です。信頼関係がないと、AI の提案等がユーザーにとって「ノイズ」となりかねません。信頼関係をつくるためには人が AI の特徴を理解すると同時に、AI が「なぜこのような出力しているのか」をユーザーに対して提示することが重要です。

たとえば「ユーザーは以前このページを確認しているから、AI はこのような情報を提案しています」「この問い合わせに似た問い合わせが複数回行われたため」というような、AI が処理を行ったロジックがユーザーに見える状態にしておくことが望ましいです。
それをユーザーが確認することで、「そこに AI が介在していること」「AI の提案が行われている理由」が可視化され、信頼構築のきっかけとなります。

「そこに AI が介在している」ことを伝える方法はいくつかあります。
文章を作成するプロダクトの場合、以下の左側では「生成中にローディング」と見せているのに対し、右側は「●●が入力中」と見せています。右のほうが、一緒に文章を作成している感覚になれますよね。これだけでも体験に大きく違いが生まれます。
ただ、必ずしも「ローディングが悪い」ということではありません。どの程度の存在感なのか、という点もケースによって変える必要があると考えています。

資料抜粋

また、ボイスボットの場合、PKSHA ではあえて「ちょっと機械っぽい合成音声」で AI に話させています。こうすることで、電話という相手の顔が見えないコミュニケーションにおいて、会話相手が「AI」であることを瞬時に認識させることができています。これをナチュラルな音声にしてしまうと、ユーザーは話し相手が本物の人間だと思い込んでしまい、AI に対して人と同等のレスポンスを無意識的に期待してしまいます。

資料抜粋

デザイナーだけではなくユーザーも巻き込み、AI SaaS の理想の UX を探索する

このイベントシリーズは、AI 技術とデザインの融合によって、新たなサービス開発の可能性を探る場となりました。PKSHA と Goodpatch の専門知識の組み合わせは、参加者に AI とデザインの相互作用について深い理解を与えました。
デザインに強みを持つ Goodpatch 社とのディスカッションは非常に勉強になることが多く、AI SaaS の開発に還元できる点が多いと感じました。また次回も企画をする予定なので、改めてお知らせさせてください!

第 2 回目イベント時、パネルディスカッションの様子

さいごに

冒頭の通り、AI × UX 領域はまだまだこれからベストプラクティスが発見されていく未知な領域です。その探索は頭の中で考えるだけでは絶対に不可能であり、デザイナーやエンジニア、プロダクトマネージャーをはじめ、ユーザーも巻き込み、作りながら検証していくべきだと考えています。
PKSHA が提供する AI SaaS では「共進化するデザイン」を強く意識しており、日々開発チームが密な議論を進め、あるべき UX 実験を行っています。

しかし、現在の生成 AI のみでは、あるべき体験を作ることは非常に難しく、様々なアルゴリズムと組み合わせることで理想の体験が実現できると考えています。
だからこそ。「今後どのような体験を作れるのか、ユーザーをどのような感情にすることができるのか」これからも探求していけることが非常に楽しみです。今まだ定義されていないユーザー体験を、これからも PKSHA は研究していきます。 

―INFORMATION―

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