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JaSST ‘23 Tokyo 参加レポート

2023 年 3 月に行われた JaSST ’23 Tokyo という国内シンポジウムに、PKSHA グループの QA(Quality Assurance : 品質保証)メンバーである石川、大原、谷村、八木原、金子が参加してきました。今回は金子がレポートします。

金子昌永 | PKSHA Workplace QA Central
車載機器ソフトウェアの開発者、医療機器ソフトウェア開発の改善リーダーという製造業におけるソフトウェアのキャリアを歩んできたところ、未来のソフトウェアはこちらだと判断し、2022 年に PKSHA へ入社。テストを中心としつつ、ソフトウェアエンジニアリング全体を扱える QA 組織・文化づくりを推進する。
[共訳] 実践ソフトウェアエンジニアリング第 9 版(オーム社, 2021)

また、金子、谷村、桜本、石川の過去インタビュー記事はこちらです。本ページと合わせて読むことで PKSHA の QA チームへの理解が深まるのではないかと思います。

JaSST とは

JaSST はソフトウェアテストの国内シンポジウムであり、複数の地方で開催されています。特に JaSST Tokyo には毎年 2~3 月に 1000 名以上が集まり、各企業でのテストに関する取り組みのほか、査読付き論文も発表される本格的な場となっています。ここ 3 年は Discord と Zoom を用いたオンラインの開催形態であり、Discord のテキストチャンネルは発表中にリアルタイムで多くの感想が流れるという活発さを見せています。

JaSST ’23 Tokyo における各セッションの概要と一部の資料は JaSST の公式レポートとして公開されています。

また、PKSHA は ソフトウェアテスト技術の発展を願い、JaSST ‘23 Tokyo にシルバースポンサーとして協賛いたしました。この参加レポートも発展の一助になればと考え、記しております。

Discord の様子

JaSSTスポンサー協賛企業一覧

JaSST ‘23 Tokyo を機会に考えたこと

従来のテスト設計に足りないこと

今回は Chaos Engineering(カオスエンジニアリング) を扱う講演が 2 件ありました。ひとつは Netflix でカオスエンジニアリングを提唱し、現在では Verica を立ち上げた Casey Rosenthal 氏 による基調講演、もうひとつは「カオスエンジニアリング」(オライリー・ジャパン、2022 年) の訳者である、堀明子氏、松浦隼人氏による講演でした。

これらの講演では次の主張をしていると理解しました。それは「構成要素が多様化して外乱も多い近年の複雑なシステムの挙動を全て把握することは現実的に不可能であり、所定の入力に対して期待する出力があることを確認する従来のテストでは立ちゆかなくなっている」というものです。
PKSHA が提供する SaaS においては、現時点ではカオスエンジニアリングを実践していません。しかしながら、この講演を通して、カオスエンジニアリングのような、本番環境で実践するエンジニアリングプラクティスを積極的に実践していくことが必要でないか、と考えさせられました。我々の SaaS においても、本番環境に届いたリクエストをサンプリングして、ステージング環境でのリグレッションテストを行うといった取り組みは行われていますが、本番環境と全く同一の環境を再現してテストすることは困難です。なぜなら、多数のユーザが作成するデータ、機械学習モデル、揺れ動く通信状況、依存しているサードパーティ要素(外部連携サービスなど)のふるまいを全て再現するのは不可能であるためです。より多くのユーザーが安定して利用できる品質であると自信を持ってサービスを提供するには、本番環境でしか行えないテストにも取り組んでいく必要がありそうです。

開発専門職とテスト専門職に垣根はあるのか

オープニングセッションの資料には以下のように書かれています。

JaSST'23 Tokyo では、テストや開発といったロールの垣根を超えたコラボレーション、技術、文化にまつわるセッションをお届けします。

オープニングセッション資料

「結合テストの自動化に QA はどうかかわっていったか」「開発と QA の垣根を越えるチームへ」「ローカル環境を用いたアジャイルテスティングの実践事例」といったように、開発専門職とテスト専門職の垣根 (あるいは壁、距離) を意識したセッションが複数あったように感じました。
セッション終了後の情報交換会でも、そのような垣根があることが話題となっていました。この垣根にも種類があって、心理的な垣根、技術的な垣根、組織的な垣根に分けられるのだと思います。

幸いなことに、PKSHA のエンジニアリング組織では、心理的な垣根はそれほど問題にはなっていません。しかし、技術的・組織的な垣根は改善する余地があるのではないかと思いました。QA エンジニアという職種が仕様を検討する機会は増えていますが、まだ要求分析には十分に関われていませんし、コードとアーキテクチャを踏まえて品質改善につなげるところもこれから取り組みが必要です。改めて、テストだけでなくソフトウェアエンジニアリング全体を扱える QA エンジニアになりたい、そのような QA 組織を作りたいと考える動機を得られました。

総合的な感想

セッションを通じて、技術的・組織的な学びが多くあり、シンポジウムの醍醐味であると思えました。
私は JaSST Tokyo に初めて参加した時期が2014年で、それ以来2年に1度程度の頻度で聴講しています。初めて参加したときは「ソフトウェアエンジニアリングの中でもテストに焦点を当てたシンポジウムとはマニアック」という印象でした。それから9年が経ち、公式レポートによると今回の参加人数は延べ2100名を超えたそうです。日本におけるソフトウェアエンジニアリングのシンポジウムの中でも指折りの存在になったのではないでしょうか。

残念ながら、社内の開発者に JaSST のことを話すと、知っている人はほとんどいませんでした。とはいえ、JaSST参加のレポート共有や報告会を通じて、多くの開発者に興味を持ってもらえたようです。PKSHAの大切にしている価値観の1つに、業務や日常のコミュニケーションを通して、学びを深め、自らをアップデートしていく、Learning Machine というものがあります。これを実践して積極的に学ぶ人が多いので、今回のイベントで得られた知見をプロダクトに生かせるようQAエンジニアとして他のエンジニアと一緒に取り組んでいこうと思います。
PKSHA ではテストを含むソフトウェアエンジニアリングの施策がいくつか動いています。いつの日かこうしたシンポジウムで発表できるように精進していきます。

最後に

PKSHA では「未来のソフトウエアを形にする」をミッションとしています。

Mission / Vision

そして、このミッションを実現するため、ソフトウェア品質保証を担う以下のポジションを募集しています。カジュアル面談も実施していますので、ソフトウェアテスト・品質保証はもちろんのこと、事業・プロダクト・技術などにも興味がございましたら、ぜひお話しましょう。


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