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社内GPT-4ハッカソンに100名以上が参加。「⾃然⾔語はもはやプログラミング⾔語」と語る事務局の狙いとは

2023年4月、生成AIが急速に普及していくなか、PKSHAでは「GPT-4 ハッカソン」を行いました。エンジニアだけでなく、全社・全職種横断型のイベントとして開催し、グループ内のおよそ100人が参加。事務局によって振り分けられた20チームのうち、全てのチームが成果物の提出にこぎつけ、イベント後には社内で実際に使われていたり、事業化が目指されたりするものもありました。

PKSHAグループが目指すVision「人とソフトウエアの共進化」の実現に向けた現在地をお届けするマガジン『PKSHA ナラティブ』

2023年4月に行われた「GPT-4 ハッカソン」について、発起人であり審査員も務めた森下 賢志さんに話を聞きました。

森下 賢志 │ AI Solution事業本部 VPoE
東京大学での博士課程修了後、日立製作所ではストレージシステム高速化の研究、フィックスターズでは自社製品の機械学習モデル開発に携わるなど、製品のコアとなる技術開発に貢献。その後PKSHA Technologyに参画し、様々な業界でのアルゴリズム社会実装を推進。主に教育業界のDXに関わり、複数のアルゴリズム導入や新規アプリ立ち上げを実施。また金融・製造業・小売業の経験も豊富で、様々な機械学習モデルを各業界に実装。2022年より、現職。


生成AIの社会実装を進めていく

—— まずはハッカソンを開催することにした経緯を教えてください。

生成AIが急速に発展していますが、中でも自然言語をインプットとした技術の発展は目覚ましく、従来ではプログラミング言語を必要としたシーンが自然言語で一部代替できるようになってきています。特に文書生成においては数年前にGPT-3が出た頃から、技術者や研究者の間では「極めて自然な対話が生成されている」と話題になっていました。その対話モデルが近年ChatGPTという形でもリリースされ、ブラウザ上での優れたUI/UXのおかげで技術者以外の方々も含むみんなが文書生成の凄まじさを体験し、活用できるようになったのはとても大きな変化でした。

非常に魅力的な生成AIですが、これをビジネスの世界でどう役立てるか。そこに関しては、まだ様々な課題の解決やユースケースの探索を幅広く行う必要があり、PKSHAが取り組んでいければと考えています。

生成AIのモデル単体では、事実と異なることをもっともらしく発言するハルシネーションの問題、プロンプト長を超える長期記憶は持てない、プロンプト・インジェクションと呼ばれるAIをハックする攻撃に弱いなど様々な課題があり、実用化のためにはこれらへの対策が求められます。また、生成AIを使うことで劇的に改善出来る事業や業務がどこにあるか、各業界ごとに探索する必要があります。これらを解決し、私たちはAIをあるべき形でAIを社会実装していくことを目指しています。

社会実装を進めていくために、PKSHAのメンバーたちは、生成AIの中でも最も注目すべき技術の1つであるGPT-4をいちばんうまく使える人たちになってほしい。そこで、今回のハッカソンを企画しました。

—— 全社・全職種横断のイベントにしたのはどのような狙いねらいがありましたか?

ビジネス側のメンバー、人事などの管理本部のメンバーにも参加してもらいたいと考えていました。なので「⾃然⾔語はもはやプログラミング⾔語です、皆さんもプログラマーです」と煽ったりしました(笑)。参加してもらうことで、スピード感を持って「GPT-4って何ができるんだろう」という理解度を深めてもらいたかったのです。

また、エンジニアも、「GPT-4の一番いい使い方はこれだよね」と確信を得ているわけではありません。「こんな使い方もあるんだ」と思わされるような、自分たちが思いついてないアイデアが広がる余地が大きいと思っています。だからこそ、職種で絞って実施するのではなく、可能な限り間口を広げて全社で行うイベントにしました。

エンジニアでないからこそ、ユーザー目線のアイデア

—— 全社で開催してみて手応えはいかがでしたか?

実際に、エンジニア以外のメンバーから意外なアイデアが数多く出てきました。

エンジニアはGPT-4を使ってできることがそれなりにわかっているんですよね。そうすると、そのできることを起点に比較的狭い範囲内で考えてしまうことがあります。

一方でエンジニア以外のメンバーは、ユーザー側に立って、実現性は不明だけど「できたら絶対嬉しい」と思えるようなアイデアをポンと出してくれたりします。すると、同じチームにいるエンジニアは「自分は50までできると思っていたけど、今希望されているのは100で、70〜80はどこまで探れるんだろう」と視野が広がることがあります。これは双方にとって楽しい議論にも繋がりますし、交流してもらう意味が大きかったですね。

運営としては世の中の変化の速さに対応していくために、ハッカソンの実施もスピード感を重視していました。正直なところ私たちの企画は粗かったですし、推進サポートも一般的なハッカソンよりはるかに薄かったです。100人・20チームが参加したうち、7〜8割が成果物を提出してくれたら上出来だと思っていました。しかし、結果的には20チーム全てが高いクオリティの成果物を提出してくれるという嬉しい驚きがありました。

これは、社風や社内文化、「未来のソフトウエアを形にする」というMissionや「未来志向:Be Proactive for the Future」などのValueの浸透が影響していると思います。PKSHAでは経営層や管理職が決めたことをメンバーが実行するだけという働き方はほとんどなく、日頃から全員が主体性を持って事業を未来方向にドライブさせています。ハッカソンでもそれをうまく発揮してもらえたと思っています。

有用なユースケース、優れた体験、GPT-4の強みを活かす

—— 選考はどのような軸で行いましたか?

まずは私たち事務局メンバーで最終候補チームを数チームに絞りました。

選考基準は、使う価値のある有用なユースケースを狙っていること、体験として優れたデザインがなされていること、GPT-4の強みを活かしていることの3点をベースにしていました。この点は事前に公開していましたね。

その観点で3チームに絞る予定だったのですが、いざ選考に臨んでみると良い作品が多くてなかなか決めきれず、6チームを残すことになりました…。

その6チームにPKSHAグループのメンバーが全員参加する月末定例でプレゼンをしてもらい、その場で全従業員からのリアルタイム投票を行って最優秀チームが選ばれました。

—— ハッカソンで生まれた成果物について教えてください。

優勝したチームの「#times-pksha」は、社内で起きたことを3分間のラジオにしてくれて、それを放送してくれます。この作品はすでに当社のSlackで動いています。3分間のラジオで聞くというUXが非常に良くて。画面すら見ずに、社内の雑談から全社広報、そして世界の最新ニュースやお便りコーナーの回答まで幅広い情報を得ることができ、すごく良い体験を提供してくれています。

他にも会議や調べ物といった業務を効率化するもの、人と人とのコミュニケーションを促進するものなど、様々なアイディアが実際に社内で動かせる形で生み出されました。業務効率化は今後顧客に提供出来る可能性もあるクオリティでしたし、AIを活用して新しいコミュニケーションの形を作ろうとする試みは、人とソフトウエアの共進化というVisionを持つPKSHAらしくて面白かったです。

人と人との間を媒介し、共進化する

—— 今回のハッカソンを振り返りつつ、今後の展望を教えてください。

社内の交流が深まり、新しいアイデアが生まれ、そしてビジネス的な側面でも新しい展開が見えてきています。すでに「お客様との商談に持っていきたい」「プロダクトにもうこれを組み込もう」と話が広がっているので、事業的にも有益なものが生まれたんだと実感を得られました。

直近は、せっかく作ったものを活かすことにも時間を使いつつ、ぜひ第2回も開催したいです。今回は自由なアイデア出しだったので、今後はより具体的なテーマを設定した回もできればと思っています。人と人の間を媒介し、共進化をもたらすような、社会実装に必要なピースを探っていきたいですね。

私たちが研究開発で大切にしている価値観に「“実践型 - 研究” 試して深める」があります。考えるだけではなく、実際に作って動かしてみること、つまりプロトタイピングを通して、この活動を事業にも活かしていきたいですね。

社内GPT-4ハッカソンの優勝チームコメント

ハッカソン大会には編集チーム(全員非エンジニア)も参加しました。最終候補チームに選ばれることはなかったものの、エンジニアの人と一緒にプロダクトを作る経験はPKSHA入社以来初めてのことで、とても良い体験でした。

今回、参加した20チーム全てがプロトタイプを作り上げましたが、どのチームのプロトタイプどれもクオリティが高く、とても素晴らしいものでした。中でも優勝した「#times-pksha」は、体験の分かりやすさと実際に利用した際の楽しさがとても印象に残ってます。2週間というタイトな期間でどのようにアイデアを固めてプロダクトを完成させていったのか、優勝チームに話を聞いてみました。

—— 作品の詳細を教えてください。

1週間の情報を社内ラジオ化してくれる「#times-pksha」というツールを作成しました。

このツールを作成した背景には「グループ全体の社員数が増え、業務で普段関わっていないメンバー同士の近況を把握しきれなくなっている」という課題感がありました。その中で目をつけたのが、Slackで各メンバーが日常の出来事を投稿するtimesというチャンネルの文化です。このtimesチャンネルには業務上の気付きやプライベートでの投稿がされていて、まさにメンバーの近況を知ることができますが、これも社員数の増加とともに全員のチャンネルを追いきれなくなっていました。そこで社内Slackのtimesチャンネルをまとめて、ラジオ音源にするツールを考案しました。

また、「個人の近況だけでなく会社や技術の最新情報も盛り込むことができるとより価値が生み出せるのでは?」と考え、会社のプレスリリースチャンネル・最新の技術情報ニュースのピックアップも同時に盛り込んでいく機能を追加しました。

さらにラジオ投稿のスレッドにコメントすると、次週のラジオでコメントを読んでもらえるお便り機能を追加することで、双方向なコミュニケーションができるようになり、社員とプロダクトが共進化もしていける設計を目指しました。

今回のハッカソンでは2週間という限られた時間のため3点に絞って実装しましたが、将来的にはプラグイン的にラジオに組み込む要素を自由にカスタマイズできるようにし、個人ごとにラジオの内容を出し分けるといったこともできると思います。

—— 職種や所属会社が様々な混成チームで取り組んだことで印象深かったエピソードは?

ハッカソン期間の2週間そのものが濃密な経験でしたね。初対面のメンバーも多い中で、早い段階で打ち合わせ・アイディア出し・プロダクトの方向性を決めることができ、2週間という限られた時間の中、開始から終了まで有効に使って開発を進めることができたと自負しています。

別グループの人にこっそり進捗を聞いたりしましたが、私が聞いた限りではどのチームよりも良いスタートダッシュを切れたと思っています。方向性が決まった後の開発も特定のメンバーにタスクを集中させることなく、各々の得意分野をベースに担当を分担できたことで、2週間という短い期間で目指したプロダクトを形にできました。

きちんと担当分担ができていたことにも紐づくのですが、全員がタスクを持っていたため、全員がやりきらないとプロダクトが完成しない状況になっており、完成したのが締切の5分前だったことはドキドキしました。

—— PKSHAの研究開発では”Beyond the Boundary”(越境せよ)という考え方を大切にしてますが、今回のハッカソンを通じて「越境」を感じた場面はありましたか?

越境という観点では、今回のチームメンバーには業務で音声を扱う開発経験がある方はいなかったのですが、テキストよりも音声による情報提供の方がユーザ(今回はPKSHA社員全体)の利用ハードルが下がると考え、チャレンジすることにしました。手探りで開発を進めていく中で、プロトタイプの音声を聴き比べていき、いくつかのアイディアが生まれました。

1点目が「よりラジオらしくするため対話形式の音声にしたい」ということです。実現するためには単独の会話よりも追加で対応すべきことが増えたのですが、しっかり作り込みラジオの視聴体験により近いものを実現することができました。個人パーソナリティ形式だとアナウンスされている感が強かったのですが、対話形式になったことでパーソナリティ同士の掛け合いも面白く、体験としてより良いものになったと考えています。

2点目が「再生時間が長すぎると利用者が気軽に聞くことの妨げになるのではないか」といったアイディアです。作品の詳細でも語りましたが、Slackのtimesチャンネルをまとめてラジオ化するところから、会社全体のアップデート情報や最新技術ニュースも盛り込んだことで、ラジオ自体の再生時間が長くなっていきました。ハッカソン優勝を狙うのであれば、まずは多くの人に1度聞いてもらってファンを増やすことが大切と考えて、3分間というコンパクトな尺にまとめることにしました。

これらのプロダクト改善の効果もあり、リリース直後から#times-pkshaは多くの社員に聞いていただき、たくさんのポジティブな反応をもらうことができました。

余談ですが、優勝を決める最終プレゼンの場でラジオパーソナリティーの口調を真似て発表をしたのですが、会場がそれによって大きく盛り上がったのも、#times-pkshaが多くの社員に視聴してもらえてファンを多く作ることができていたからだろうと思います。

ハッカソンの2週間の期間に盛り込めなかったアイディアはその後も開発を続けており、#times-pkshaというプロダクトがさらなる価値を届けられるように、今も業務の合間を利用して開発を続けています。

—— ハッカソン前と後でGPT-4への理解はどう変わりましたか?

参加前はGPT-4を使ってどういった処理を実施させることができるのか?という観点で考えていました。今回のハッカソンを通して、GPT-4をプロダクトを作る1つのパーツとして考えたとしたら、どういったプロダクトが作れるのかという視点を持って考えることができるようになりました。

INFORMATION

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取材・執筆:遠藤 光太
編集:編集チーム
撮影:尾木 司

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