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マイクロソフト×PKSHAの共進化 - 生成AI活用によるセールスイネーブルメントを実現するプロダクトの検証

2023年10月、マイクロソフトが、AIやIoTを活用したイノベーションの創出を目指し「Microsoft AI Co-Innovation Lab」を神戸市に設立しました。PKSHA Workplaceは設立当初より同ラボに参画し、マイクロソフトとPKSHAの技術を掛け合わせた生成AIの新たな活用方法を模索しています。

その取り組みの中から、営業領域(セールスイネーブルメント)における生成AI活用を加速させるプロダクト『PKSHA AIイネーブルメント(仮)』が検証されました。本記事では、その背景にある両社のコンセプトや、取り組みの経緯などについて、取り組みの中心を担ってきた4名の対談をもとに紐解いていきます。

小柳津 篤 様(写真右奥・日本マイクロソフト株式会社 エグゼクティブアドバイザー)
1995年マイクロソフトに入社し営業/マーケティング部門などを経て現在に至る。ワークスタイルの改善/変革に関する100社超のユーザープロジェクトに参加し、講演を多数こなしている。

矢ヶ部 大海 様(写真右前・日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部 クラウドパートナー開発本部 シニアビジネスディベロップメントマネ-ジャ-)
日本マイクロソフトで一貫してBtoBビジネスに携わり、営業、インサイドセールス、マーケティング、スタートアップとの事業開発などを経験。現在パートナー協業部門において、ISV・SaaS企業を対象に Microsoft Azure や Azure AI の技術を活用した新たな事業・サービス開発での協業に取り組む。

花塚 匠(写真左奥・株式会社PKSHA Workplace AI SaaSプロダクトマネジメント部 プロダクトマネージャー兼プロダクトデザイナー)
英国バーミンガム大学大学院 計算論的神経科学/ 認知ロボティクス修了。東大松尾研発スタートアップや、デザインファームを経てリーガルSaaS領域で事業立ち上げ。プロダクト開発責任者として従事した後、PKSHAグループに入社。AI SaaSのプロダクトマネージャー/ プロダクトデザイナーとして従事。

中島 真也(写真左前・株式会社PKSHA Technology AI Solution 事業本部 エンジニアリングマネージャー)
大学院で宇宙物理学の博士課程を取得後、ポスドク研究者としてJAXAに3年・理研に2年所属。その後2019年にキャリアチェンジし、アルゴリズムエンジニアとしてPKSHAへ入社。小売の在庫最適化や、金融における与信プロジェクトに関わるとともに、2021年からはエンジニアリングマネージャーとしてチームマネジメントも担当。2023年からはAI SaaSプロダクトのアルゴリズム開発も兼任。


「共進化」と「Workstyle Innovation」の交点から生まれた実証実験

――マイクロソフト様との取り組みはPKSHAが掲げる『共進化』を体現していると思います。お話を進めていく前に、まずは『共進化』という概念についてお聞かせください。

花塚:PKSHAでは、関わり合う人々やソフトウエアが互いに対話をし合い、形を変えていくことを共進化と呼び、そういった関係性を築いていくことを重視しています。社内においては部署を越えて混じり合うこと、社外においてはパートナー企業やクライアントと議論を深めながらより良いものを作り続けることが、この共進化にあたると考えています。

中島:共進化の思想は事業構造にも反映されています。先端技術を社会実装するための研究を行うLayer0、クライアントごとのソリューション開発を行うLayer1、そしてAI SaaSという形でより広範に使っていただくプロダクトを開発するLayer2に社内の役割は分かれていますが、それぞれのLayerが相関し、共進化しながら事業を展開しています。

――マイクロソフト様との取り組みのきっかけについてお聞かせください。

花塚:「Workstyle Innovation」に取り組むマイクロソフト様とPKSHAで何か一緒にできないかと議論を深めていく中で、同社における情報共有のありかたについての課題が出てきました。同社のセールスメンバーは、本国から送られる英語の資料をもとに、すばやく製品についての理解を深めなければなりません。一方、資料作成をする営業企画も、現場に製品の理解が浸透しているかフィードバックがほしいというニーズがありました。私たちはこの課題を解決するべく、AIを中心とした資料の検索・管理の高度化の構想を提案しました。

小柳津:マイクロソフトが掲げる「Workstyle Innovation」とは、「三人寄れば文殊の知恵」が発揮される環境を目指す思想です。“働き方改革”という言葉からは、単なる リモートワークを想像する方が多いかもしれませんが、私たちはナレッジシェアリングやナレッジマネジメントを促進することで、複数メンバーがコラボレーションを深め、より良い仕事ができることを「Workstyle Innovation」と捉えています。

この「3人寄れば文殊の知恵」を最大化するアプローチについて議論する中で、PKSHAから今回のAIの使い方について提案していただきました。このアイデアは新しいナレッジシェアリングのモデルになると直感し、PoC(実証実験)を通じてそれを確かめようと考えたことが、今回の取り組みのきっかけです。

――連携先としてPKSHAを選んだ理由をお聞かせください。

矢ヶ部:マイクロソフトはPKSHA Technology、グループ会社であるPKSHA Workplace双方と数年前から連携してきました。当初からマイクロソフトのクラウド技術にコミットいただいており、中でもMicrosoft Teamsと連携するプロダクトにおいては開発から拡販まで強力に推進いただいてきました。同プロダクトは現在『PKSHA AIヘルプデスク』へと進化し、AIに対する多様なニーズを踏まえながら、クライアントの業務活用シーンを想定した機能改善を続けています。こういった関係構築を重ねてきたことが、今回の取り組みへとつながりました。

小柳津:PKSHAは極めて精度の高い日本語のAIを研究開発している点において群を抜いています。マイクロソフトもAI領域に莫大な投資をしていますが、こと日本語の分野において国産AIの開発を推進されているPKSHAは非常に高い精度を持っていると感じています。また、お客様先の個別具体な課題を解決するプロジェクトに対応できることも、PKSHAの強みです。精度の高い日本語AI、そしてお客様の課題解決に資する実装力。この2点が、PKSHAと連携するうえで重視したポイントでした。

ユーザーフィードバックを重視して生まれた『PKSHA AIイネーブルメント(仮)』と濃密な一日を過ごした検証

――PoCの内容について教えてください。

花塚:今回のPoCは大きく二つの段階に分けられます。一つ目は、先ほどお話したAIを中心として情報検索・管理の高度化を実現するプロダクトについて、コンセプトから議論を深め、開発したプロダクトをもとにアンケートを実施しました。二つ目は、この結果を踏まえ、マイクロソフト様のエンジニアと検証を行い、さらにプロダクトの精度を上げる取り組みを行いました。

――開発したプロダクトについて詳しくお聞かせください。

花塚:ナレッジマネジメントというテーマや、小柳津さんが着手していたMicrosoft Copilotの知見などについて議論を交え、それをもとに『PKSHA AIイネーブルメント(仮)』というプロトタイプを開発しました。本プロトタイプは、AIに資料を投げかけると、その資料の内容を要約し、営業職員のインプットを効率化します。また、理解度をチェックする項目を自動で作ることで、営業職員の理解度をクイックに把握できるようにしました。このテスト結果や資料の利用状況はマネージャーや営業企画に共有され、コンテンツマネジメントの効率化にも寄与します。

矢ヶ部:コンセプト設計の段階で、PKSHA側のエンドユーザーにヒアリングをしてくださったことが良かったと感じています。大企業の営業組織を想定しつつ、資料の読み込みや整理、理解度の把握といった共通課題を見いだしたからこそ、解決策について議論を深められました。これは、PKSHAがユーザーフィードバックを大切にする会社だからこそできたことだと感じています。

――取り組みの初期について、思い出に残っているエピソードはありますか。

花塚:プロトタイプを直接見ていただきながら、矢ヶ部さん、小柳津さんと長時間議論した日のことは印象に残っています。

矢ヶ部:マイクロソフトの組織活性化や働き方改革のフレームワークについて共有すると共に、どのような観点でPoCを行えば効果が得られるかという議論を一気に進めました。

小柳津:正直、プロトタイプの時点では業務で使う想像ができませんでした。ここから先の道の険しさを痛感したのですが、そこからみるみるうちに機能が改善され、開発スピードも上がっていったので、そこはPKSHAの技術力や組織構造の強さを改めて感じたところです。

中島:お二人に詳細なフィードバックをいただけたからこそ、アルゴリズムにそれを反映することができたと思います。

――プロトタイプを実際に現場の方々に使ってもらって、どのようなフィードバックがありましたか。

花塚:アンケートでは9割以上の方がプロトタイプに対して期待を抱いている、効果があったといったポジティブな声を寄せてくださったのが印象的でした。

小柳津:このアイデアが実現したら現場で評価されるだろう、という見通しは、個人的には強く持っていました。ですから、ポジティブな回答については予想通りと感じつつ、レスポンスのスピードなどの技術的な面でのハードルを越えるのは難しいだろうと考えていました。

中島:小柳津さんの指摘はまさにおっしゃる通りで、アルゴリズムの構成を工夫してみたのですが、資料の内容を理解するための処理スピードが遅かったり、図表などが入ってくると読み取りが難しくなるといった課題が残りました。またアンケート結果を見ても、資料を読み取る精度の向上などについての希望がありました。

――そこから二段階目に進んだ流れをお聞かせください。

花塚:ネクストステップについて考えていたところ、矢ヶ部さんから「Microsoft AI Co-Innovation Lab」で検証をする機会をいただきました。

矢ヶ部:Microsoft AI Co-Innovation Lab は 2017 年より世界各地に開設されている先端技術にフォーカスしたイノベーション拠点で、神戸の同施設は世界において6つ目の拠点です。同施設はエンタープライズ、中小企業、スタートアップなど、規模を問わず、日本およびアジアのお客様に開かれており、マイクロソフトのエンジニアの支援を受けてサービスやプロダクトを開発していくことができます。

Microsoft AI Co-Innovation Lab エントランス

花塚:事前に課題感のすり合わせを行ってから神戸のMicrosoft AI Co-Innovation Labに足を運び、マイクロソフトのエンジニアの皆さんと共に、朝から夕方まで開発に向き合いました。

中島:1日という短い期間ではありましたが、一同に集まってトライアンドエラーをひたすら繰り返した時間は濃密でした。打ち合わせや他の業務によって中断されることなく、集中して効率的な開発に取り組めたと思います。結果として、資料を読み取る精度の向上に繋げることができ、プロダクトをブラッシュアップする機会となりました。

同ラボでのミーティングの様子

二社のコンセプトと技術を掛け合わせ続いていく『共進化』

――両社の連携における今後の展望についてお聞かせください。

矢ヶ部:これまでも実施してきた連携は続けつつ、マイクロソフトが掲げる「Workstyle Innovation」と、PKSHAが掲げる『共進化』という両社のコンセプトを掛け合わせた取り組みを推進していきたいです。日本企業の働き方改革や、業務生産性の向上、コラボレーションの活性化といった重要な課題に対して、イベントやマーケティング施策等を通じて連携してメッセージを打ち出していけたらと考えています。またPKSHAが展開するプロダクトにおいても、そのコンセプトを実現する機能が進化していき、より多くの企業の課題解決に繋がっていくことを期待しています。

小柳津:マイクロソフトは「Microsoft Copilot」をはじめとしたAIに関するサービスを提供しており、現在はこれらをお客様の業務上の課題を解決する仕組みとして置き換えられるよう、社内を実験台としたフレームワーク作りに取り組んでいます。個人的には、このフレームワークにPKSHAの強みをうまく融合させることで、何かできることはないかと期待しています。新たなコンセプトワークについて、早々にお話できると嬉しいです。

花塚:私は今回のPoCで作り上げたものが、将来的にはナレッジプラットフォームのひとつのピースになっていくと考えています。そのゴールに向けてプロダクトをしっかりと仕上げてお客様に届けることを最優先の目標としつつ、同時にAIをどのように評価するか、そしてどういった業務領域にAIがマッチするのかといった問いに対する探索をしなければなりません。そういった課題を踏まえ、今後もマイクロソフト様と第二段、第三弾と継続的にプロジェクトを立ち上げていきたいと考えています。

中島:皆さんからお話いただいた事業上の連携に加え、技術基盤のところでの連携も継続していけたら、と考えています。今回の取り組みのほか、マイクロソフトリサーチが研究開発したLLMのアーキテクチャを活かした「PKSHA RetNet」の開発など、新しいモデルの開発といったプロジェクトにも積極的に取り組み、今後も二社の連携を深めていければと考えています。

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